手技・ケア・リハビリQ&A
監修
国際医療福祉大学教授 福岡山王病院
耳鼻咽喉科部長/音声・嚥下センター長 梅﨑 俊郎 先生
-
気管切開患者様のウイニング(人工呼吸器離脱)のタイミングを教えてください。
ウイニングに関するプロトコルを日本集中治療学会、日本呼吸療法医学会、日本クリティカルケア看護学会が、合同で作成しています。
鎮痛薬を中止または減量し、自発的に覚醒が得られるか評価する「自発覚醒トライアル(SAT)」および人工呼吸による補助がない状態に患者が耐えられるかを評価する「自発呼吸トライアル(SBT)試験」を基準としたプロトコルです。
また、同3学会は、各施設の現状に応じたプロトコル作成を推奨しています。
詳しくは、日本集中治療医学会のホームページをご確認ください。 -
気管切開孔を閉鎖する一般的なタイミングや条件を教えてください。
長時間の自発呼吸でもSpO2の低下がなく、かつ誤嚥の心配がない患者様が対象。
咳嗽が良好であることも重要な条件となります。 -
カフ付き気管カニューレからカフなし気管カニューレに変更する一般的なタイミングや条件を教えてください。
人工呼吸器等による呼吸管理を要さず、カフ上部の貯留物も著しく減少し誤嚥の心配がないことが前提条件となります。
但し、患者様の病態によって異なりますので専門医の判断で行ってください。
-
油脂製軟膏を気管カニューレ挿入時の潤滑剤として使用しても問題ないでしょうか。
挿入する際に使用する潤滑剤は、塩酸リドカインゼリー等をお使いください。油脂性軟膏等を使用すると、気管カニューレの劣化・破損・硬縮等の原因になることがあります。
-
カフ付き気管カニューレのカフに入れる空気の適正な量を教えてください。
カフは「量」でなく、「圧」で管理してください。適正カフ圧は20~25mmHgと言われています。カフ圧を計るにはカフ圧計を使用してください。圧で管理する理由は、カニューレの種類・サイズによりカフの大きさが異なり、患者様の気管径、形状もまた異なるためです。
詳細は、動画「気管カニューレ カフ圧の重要性」をご覧ください。
-
気管カニューレの側孔(窓)に肉芽が入り込んでしまった際の治療方法を教えてください。
気管カニューレを無理に引き出そうとすると肉芽から出血したり、肉芽がちぎれて気管内に落ち込んでしまうおそれがあります。治療方法は必ず専門医にご相談ください。
-
気管切開をしている時の酸素療法について教えてください。
トラキマスクや酸素ポート付きの人工鼻を用いる方法があります。
-
気管カニューレが呼吸回路から外れなくなった際の対処方法を教えてください。
気管カニューレをしっかりと支え、呼吸回路を左右に小さく回しながら外してください。どうしても外れない時は、チューブ取り外し用ウエッジ(「コーケンウェッジ」等)を使用してください。無理やり外そうとすると、気管への刺激となりますので、注意してください。
-
気管カニューレを使用している患者の気管内でレーザーメスや電気メスを使用しても問題ないでしょうか。
気管カニューレを介して酸素投与を行っている際は、原則使用しないでください。発火による気管熱傷・有毒ガス発生のリスクがあります。
-
カフ付き気管カニューレ使用中、定期的にカフの空気を抜く(脱気)ことは必要ですか。
高研社製のカフ付き気管カニューレは、すべて「低圧カフ」を採用しているので頻回な脱気は不要です。カフ破損等による空気漏れの確認、適正カフ圧への調整を目的とした脱気を1日数回行うことを推奨します。
上部吸引ラインを有する気管カニューレをお使いの際は、吸引後に空気を抜いてください。 -
高研社製のレティナや開口部レティナが抜けた際の対処方法を教えてください。
医師・認定看護師が再挿入してください。
但し、不潔になってしまった場合は、新しい製品を使用してください。在宅医療では、緊急用に挿入が比較的容易な、カフなし気管カニューレを用意しておくのもひとつの方法です。
-
吸引カテーテルを使用して気管カニューレ内や気管内吸引を行う際の注意事項を教えてください。
気管カニューレの内径(ID)1/2以下の外径サイズのカテーテルが推奨されています。
①吸引前に口腔・鼻腔を介して咽頭部に貯留した唾液等を予め除去する。
②カテーテルを気管分岐部に当たらない位置まで挿入する(自発呼吸のある患者様は吸気時に合わせて)。
③陰圧をかけながらカテーテルをゆっくり引き戻す。また、以下のことが推奨されています。
・1回の吸引操作で10秒以上の陰圧をかけない
・一連の操作は15秒以内に行う
・吸引圧は最大20kPa(150mmHg)尚、医師・看護師以外の吸引は、必須要件を満たす必要があるので、ご注意ください。
詳細は無償でお配りしております「気管カニューレの種類とその使い分け」をご参照ください。
-
分泌物が多く、気管カニューレ内部が詰まりやすい患者様の対処方法を教えてください。
適宜、気管カニューレを交換してください。呼吸管理上問題がなければ、二重管(複管)の気管カニューレを採用して、内筒(インナーカニューレ)のみを交換する方法も検討してください。
ただし、本質的な問題解決にはならないので、定期的に気管カニューレを交換することが肝要です。
また、予防策として、人工鼻の装着や室内の湿度を適切に保つことも重要です。 -
気管切開孔や気管切開孔周辺を清潔に保つための方法やケアの方法について教えてください。
皮下気腫や感染兆候の有無を継続的に観察してください。術後数日は消毒を行い、Yカットガーゼを用いて浸出液等の吸収、気管カニューレによる孔周辺の圧迫の軽減を図ってください。(アルコール系の消毒薬はなるべく使用しないでください。気管カニューレの劣化・破損の恐れがあります。)
気管切開孔が安定した後は、適宜清拭を行い、皮膚を清潔に保ち、観察は継続してください。 -
気管切開患者様の口からの食事を開始するための訓練方法について教えてください。
喀痰・呼吸訓練を経て、誤嚥防止を目的とした、息こらえ嚥下を練習します。その後、訓練レベルに合った機能の気管カニューレを用いて、経口摂取訓練に移行します。
尚、嚥下機能の観点から、発声機能付き気管カニューレを使用しての喉頭を介した呼吸の促進が推奨されています。 -
気管切開患者様は入浴することは可能ですか。
原則入浴は避けてください。どうしても入浴する際は脇までに留めてください。入浴前に、蒸気での目詰まりのリスクを伴いますので人工鼻を外し、痰吸引を行ってください。その後、気管カニューレ、気管切開孔周辺からお湯が気道・肺に入らないようタオル等を巻いてから入浴してください。
永久気管孔の患者様向けにシャワー時に使用するエプロン状の市販品も販売されています。 -
発声機能を有する、カフ付き気管カニューレ・カフなし気管カニューレそれぞれの一般的な使用開始時期や条件を教えてください。
カフ付き気管カニューレをご使用中であれば、殆どの時間を呼吸器に接続せず十分な換気量があり、かつ誤嚥の心配がほぼない患者様に使用します。
カフなし気管カニューレをご使用中であれば、呼吸器を一切使用せず十分な換気量があり、かつ誤嚥の心配がない患者様に使用します。発声機能を有するカフなし気管カニューレはカニューレフリーへの移行期にも使用されます。 -
発声用気管カニューレを使用して発声訓練を行う際、酸素療法をおこなうにはどうしたらよいですか。
弊社では、酸素を供給できるノズルが付いた発声用バルブを取り扱っています。受注生産品ですので、詳しくは本ホームページのお問合せフォームよりお問い合わせください。
-
コーケンネオブレススピーチタイプなど、カフ付きの発声機能付き気管カニューレを使用して発声訓練をおこなう際、カフの空気を抜く(脱気)必要はありますか。
患者様の分泌物の誤嚥リスク・呼気量等で脱気の要否を判断してください。脱気することにより、呼気がより上気道を通り発声しやすくなる一方、分泌物の下気道への垂れ込みリスクが高まります。脱気する際は、予め上部吸引ラインを使って、分泌物・誤嚥物を除去してください。